水稲栽培の流れと、防除のポイントとは?
米の成長段階について
稲の一生は、大別すると2つの時期に分けられます。
- 自らの体を作る栄養生長期
- 子孫(米の入った穂)を残すための生殖生長期
そして、さらに細分化すると以下のようになります。
- 栄養生長期:
① 生育期 ② 苗期 ③ 分けつ期 - 生殖生長期:
④ 幼穂形成期 ⑤ 穂ばらみ期 ⑥ 出穂期 ⑦ 登熟期
生育期〜苗期(3-4月頃)
『苗作り』のタイミングです。
水稲栽培にとって「苗半作」という言葉があるほど非常に重要です。
苗代で育てる苗の良否が、田んぼでの生育や最終的な収量を左右します。
具体的には、以下のようなことを行います。
- 種籾を塩水につけて選別し、悪い種籾を取り除く
- 病害虫予防のための農薬を使って消毒を行う
- 種を水に浸して加温し発芽させる
育苗箱に種籾をまくと、2〜3日後に発芽して生育期となります。
これをハウスの中で育成するのですが、20〜25日後には15cmほどの大きさに成長し、苗期となります。
またハウスで育苗を行っている間に、水田に田植えを行う準備をします。
- 耕起:
田んぼに水を入れる前に、トラクターで土を掘り起こして柔らかくします。 - 代かき:
田んぼに水を張り、その後トラクターで田の土の固さを調整し平らな状態にします。このときに、稲の茎や葉っぱを成長させるための「基肥」と呼ばれる肥料を施します。
田植えと分けつ期(5月頭-6月)
田んぼと苗の準備が終わったら、田植機で苗を植えます。
2〜4本で1株にまとめた苗を、15〜20cm間隔で植えていきます。
植えられた苗は、成長して根元から新しい茎が現れる「分けつ期」に入ります。
この田植え直後の時期は初期管理が重要です。
主に以下の4つの作業を行います。
(1) 水管理
田んぼの水は、稲の生育状況に合わせて水の深さを変えています。
例えば、分けつ期の後半には土中に酸素を送り込むために完全に水を抜くなどの調整を行います。
(2) 除草
主に除草剤を散布します。
この時期に散布するのは、移植前後に散布する初期除草剤や、移植直後から移植後15日位までに散布する一発処理除草剤、移植後20~30日位に散布する初中期除草剤が該当します。
※ ドローンで除草剤の散布を行う主な時期は6月頃になります。
また、取りこぼした雑草を茎葉散布で防除する後期除草剤も必要であれば散布します。
(3) 病害虫の防除
特に梅雨に入ると温度や湿度が高く蒸し暑くなるため、病害虫の発生が多くなります。この時期から、稲の代表的な病気であるいもち病(葉いもち)の発生が始まります。
殺菌剤の基本は圃場全体への予防散布であり、殺虫剤の基本は発生初期の防除です。異常が発生する初期のこの時期に散布を行います。
(4) 追肥
数回に渡り、チッソやリン酸、カリ肥料を生育に合わせて加減しながら与えます。
この時期の最初は自分の体を作る栄養生長期ですが、後半からは穂を付けて実をを大きくしていく生殖生長期に切り替わります。
後半の追肥では、美味しいお米の粒を増やしたり、粒を大きくするための栄養を与えます。
幼穂形成期〜穂ばらみ期(6月末-7月)
分けつ期を過ぎると、茎のなかで穂の赤ちゃんを作る準備をします。これを幼穂形成期と言います。
また、幼穂がしだいに大きく成長し、穂が出るまでの間を穂ばらみ期といいます。
これらの時期は約25日間ほど続きます。
カメムシの防除
出穂期に入る2週間ほど前から、水稲の天敵である斑点米カメムシ類がエサを求めて水田に侵入を始めます。
カメムシのストロー状の口で汁を吸われた米は「斑点米」という黒い米になります。
斑点米が発生すると米の「等級」が下がり、市場価格が下がるため農家にとって重大な問題になります。まずは発生前の防除が大切なため、この時期にカメムシの防除を目的とした草刈り等の除草を行います。
ヒエのような雑草が多く残っている水田はカメムシの発生が早くなるので、除草を行います。出穂10日前までには除草を終わらせておくのが通例です。
病害菌の対策
穂ばらみ期から出穂期にかけて発生が始まる、『いもち病』と『紋枯病』があります。
『いもち病』は葉いもち病から進展するため、葉いもち病の段階できちんと対策を行えば、穂に症状が出てくる『穂いもち病』の発生は低く抑えられます。しかし、葉いもち病の対策を怠ったことで『穂いもち病』の発生が始まっている場合は早急に防除が必要になります。
またこの時期には『紋枯病』の発生が考えられます。その際には『いもち病』『紋枯病』を同時に防除出来る薬剤での散布が有効となりますので、防除を行います。
その際に、降雨量による湿度が病害菌の発生に大きく影響します。雨の合間をぬっていもち病や稲こうじ病など、病害菌の防除を行いましょう。
追肥
茎の中に穂ができ始めるころから、葉の色が淡くなってきます。穂の数や茎の中の籾数を増やしたり、実るまでちょうど良い葉の色を保たせるために追肥を行います。出穂の20~25日前ころにチッソ、リン酸とカリ肥料を生育に合わせて加減しながら与えます。
出穂期〜登熟期(8月)
茎から穂の先端が少しでも出ていることを出穂といいます。この時に出る穂は淡緑色です。
出穂した穂が、水田全体で40〜50%に達した時期を出穂期といいます。出穂が始まってから、出穂期までは通常2〜3日を要します。
この緑色の穂には小さな花がつきます。
花に受粉が終わると、米粒を太らせる登熟期になります。
水管理
穂が作られる時期から出穂・登熟期間にかけては水を多く必要とします。稲は、これまで茎葉で蓄えてき た栄養を水に溶かして穂に送り登熟するためです。
また、「間断潅水」という、3~4日掛けて水を入れ、2~3日掛けて水を抜く作業も行います。これは土壌中に酸素を供給し,根の発育を促進させるために行うものです。
出穂してから約30日後、稲刈りの約10日前には「落水」という田んぼの水抜きを行います。水を落として、稲を乾かすことにより登熟を完了させるのが目的です。また、土を乾かすことにより、コンバインの走行性の安定など、稲刈りの作業がスムーズに行えるようにします。
殺虫・殺菌剤の散布
出穂期に発生するカメムシの防除のため、出穂後10日頃に殺虫剤を散布します。また、ウンカ類、ツマグロヨコバイ等の防除も目的としています。同様に、出穂後24日頃にも2回目の散布を行います。
また、葉いもちが多発している圃場などが近くにある場合は、穂いもちへの発展を防ぐために出穂期〜7日後までに散布を行うこともあります。
収穫期(9月)
出穂後、35日ほど経つと、穂が垂れて黄色くなります。
このタイミングで収穫が可能です。
この際に重要になるのは収穫適期の見極めです。収穫適期は、品質・収量・食味の全てに重要なポイントとなります。品種ごとの出穂後日数や気温、籾の黄化率、水分等で判断を行います。
また、収穫作業は天候等に左右されて作業に余裕がなくなる等の事態が発生します。事前の作業計画の作成といった準備が重要です。
収穫された籾は「生き物」であるため、保管状況に気をつける必要があります。そのままの状態で長時間放置しておくと、「変質米」の発生は品質低下などが起こる可能性があります。
いかがでしたでしょうか。
地域の気温と気候によって米の成長時期や病害虫等は変化します。今回は代表的な東北〜関東にかけての気温を中心に話を進めましたが、北海道や西日本エリアは時期が前倒しや後ろ倒しになります。
その地域に合った伝統的な栽培に合わせて、水稲栽培を進めて頂ければと思います。
参考:
・水稲栽培の基礎知識:関川村役場
・水稲栽培の手引き: 大阪府立環境農林水産総合研究所
・水稲栽培とは よくわかる水稲栽培:株式会社せいだ
・【現場で役立つ農薬の基礎知識2018】水稲の本田防除 計画的予防散布で確実に防除:農業組合新聞
・【現場で役立つ農薬の基礎知識2018】水稲の本田防除 計画的予防散布で確実に防除:農業恊同組合新聞
・主な水稲殺菌成分の特性一覧:農業恊同組合新聞
・主な殺虫成分と適用害虫:農業恊同組合新聞
・斑点米カメムシを防除して良質な米作りを!:バイエルクロップサイエンス株式会社
・稲と米:地球資源論研究所
・No.5 農業技術情報 いもち病・カメムシ対策に厳重警戒を:仙北地域振興局農林部農業振興普及課