モスピラン、スタークルとは?ネオニコチノイド系殺虫剤を解説
有効成分と適用害虫
ネオニコチノイド系農薬は、現在世界でもっとも広く使われている殺虫剤と言われています。
ネオニコチノイドの有効成分は、アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリドという7種類があり、これらを主成分とする農薬・殺虫剤は様々な用途や『モスピラン』などの製品名で販売されています。
ネオニコチノイド系農薬は、神経毒性、浸透性、残留性という大きな3つの特徴を持っています。
神経毒性という点では、脊柱動物ではなく昆虫に対して選択的に作用します。さらに浸透性の高さにより、水に溶けて根から葉先まで植物の隅々に薬効が行き渡ります。かつ、その効果が長期間持続します。そのため、作物全体が防除効果を持つ非常に優れたな農薬として大規模に使用されています。
代表的な商品
ネオニコチノイド系の農薬の代表的な商品は、以下の通りです。
- アセタミプリドを有効成分とする『モスピラン』
- ジノテフランを有効成分とする『スタークル』
- クロチアニジンを有効成分とする『ダントツ』
- チアメトキサムを有効成分とする『アクタラ』
上記の農薬は、どれも無人ヘリやドローンといった空中散布用となっているものが非常に多いですが、特にジノテフランを有効成分とする『スタークル』のシェアが非常に大きくなっています。
毒性はいずれも「普通物」に分類されています。
空中散布の状況
一般財団法人残留農薬研究所の研究によれば、平成28年度の無人ヘリコプター防除(水稲)における農薬の使用面積は、
- ジノテフラン:445(千ha)
- クロチアニジン:50(千ha)
- チアメトキサム:23(千ha)
となっており、ジノテフランは現在散布されている殺虫剤系農薬の第1位、クロチアニジンは第6位、チアメトキサムは第8位と上位を占めています。
空中散布可能な商品:ジノテフラン系
2019年1月現在、散布可能な農薬には以下の薬品があります。
- スタークル液剤10
- スタークル1キロH粒剤
- アプロードスタークルゾル
*トレボンスターフロアブルは、エトフェンプロックスを主要成分とする『トレボン』にジノテフランが配合されています。
スタークル液剤10
成分:
カメムシ類・ウンカ類、ツマグロヨコバイに高い殺虫効果を示します。
高い殺虫効果と優れた浸透移行性により、長期間の残効性を示します。
カメムシ類には、殺虫効果と吸汁阻害効果で斑点米被害を効果的に防ぎます。
散布後は有効成分が速やかに作物内に移行し、効果を発揮します。
スタークル液剤10は、クミアイ化学、サンケイ化学、北興化学から商品化されています。
※三井化学アグロからは、スタークルメイト液剤10という名前で商品化
スタークル1キロH粒剤
成分:
粒剤の水面施用でカメムシ類の防除が可能です。
顕著な吸汁阻害効果で、カメムシの斑点米被害を防ぎます。
スタークル1キロH粒剤は、北興化学から商品化されています。
※三井化学アグロからは、スタークルメイト1キロH粒剤という名前で商品化
アプロードスタークルゾル
成分:ジノテフラン 9.0 %、ブプロジオン 18.0 %
ウンカ類に定評のあるアプロードと、カメムシ類に優れた効果のスタークルを配合した水稲用殺虫剤です。
トビイロウンカにはアプロードの残効性とスタークルの優れた効果で、幅広い処理適期と長期間の残効性を持っています。また、カメムシ類には、スタークルの殺虫効果と吸汁の阻害効果で斑点米被害を阻止する効果があります。
アプロードスタークルゾルは、クミアイ化学・日本農薬から商品化されています。
空中散布可能な商品:クロチアニジン系
2019年1月現在、散布可能な農薬には以下の薬品があります。
- ダントツフロアブル
- (ダントツ粒剤)
- (モリエートSC)
- (モリエートマイクロカプセル)
*1 ダントツ粒剤は、現在れんこんにのみ使用可能です。
*2 モリエートSC、モリエートマイクロカプセルは、現在まつの木にのみ使用可能です
ダントツフロアブル
成分:クロチアニジン 20.0%
新しいタイプのネオニコチノイド系殺虫剤で、既存の殺虫剤に感受性が低下した害虫にも安定して効果を示します。特にウンカ類やカメムシ類に速効的な効果を示し、浸透移行性があり、残効性も優れています。
茎葉部から作物体内に吸収され、作物全体へ浸透移行していきます。葉の表から葉裏への移行性もありので、アブラムシなど葉裏に生息している害虫にも優れた防除効果を発揮します。
取扱メーカーには、協友アグリ、住友化学などがあります。
空中散布可能な商品:チアメトキサム系
チアメトキサムを有効成分とする農薬の空中散布実績は23千haと、一定規模の散布範囲を持っています。
しかしながら主要な空中散布可能な農薬は、現在アミスターアクタラSCのみとなっています。
アミスターアクタラSC
成分: チアメトキサム 6.5%、アゾキシストロビン 8.0%
無人ヘリコプター散布の防除で数多くの実績があるアミスター(有効成分アゾキシストロビン)と、野菜・畑作などの殺虫剤として高い評価を得ているアクタラを混合した空中散布用の殺虫殺菌剤です。これら二つの有効成分が合わさり、水田の重要病害「いもち病」、「紋枯病」、斑点米の原因となる「カメムシ類」に対して優れた防除効果を発揮します。
「アミスター アクタラ SC」は、大別して3つの特徴を持っています。
- 二つの殺虫殺菌成分の配合
アミスターがイネ体内の隅々まで浸透し、植物病原菌の生存に必要な「呼吸」を阻害。病原菌増殖サイクル全てに効果を発揮します。
アクタラが害虫への食毒作用を発揮。吸汁を阻害しカメムシ類を餓死に至らせます。
- 有効成分が 2成分あるため、減農薬栽培にも対応
- 散布適期が長く、防除体系が組みやすい
とりわけ「紋枯病」に対して従来の薬剤よりも散布適期が幅広く、病害虫の同時防除が可能です。
薬品使用上の注意
ネオニコチノイド系農薬に対する安全性の疑問視
ネオニコチノイド系農薬は1990年代から市場に出回り始めました。特に日本ではカメムシ防除に多用されており、この10年で出荷量が3倍になるなど、積極的に使用されています。
しかしながら、実はネオニコチノイドの成分はタバコのニコチンに似た成分をベースとしています。
冒頭にネオニコチノイド系農薬の大きな特徴として、神経毒性、浸透性、残留性を挙げましたが、実はこれらは害虫だけでなく益虫を含む多くの昆虫に影響する可能性があります。また、水に溶けるため植物の隅々に行き渡り、作物全体が殺虫機能を持つようになる一方で、水を媒介に周囲の環境に蓄積します。
人体には安全とされているものの、鳥類や哺乳類への悪影響が報告され始めており、かつ、散布時期に体調不良の患者が増加するなど人体への影響も指摘され始めています。
これらを受けてEUでは、イミダクロプリド・チアメトキサム・クロチアニジンの3種類の有効成分を含む農薬の屋外散布禁止が2018年より決定されています。
これも受けて日本でも現状の問題が指摘されて始めていますが、具体的な規制等の動きは未定です。
適用害虫と使用方法
*『産業用無人航空機用農薬』一般社団法人 農林水産航空協会ページより抜粋
スタークル液剤10
作物名 | 適用害虫名 | 希釈倍数 | 散布液量(ℓ/10a) | 使用時期 | 本剤の使用回数 | ジノテフランを含む農薬の総使用回数 |
---|---|---|---|---|---|---|
稲 | ウンカ類 | 8倍 | 0.8 | 収穫7日前まで | 3回以内 | 4回以内(育苗箱への処理及び側条施用は合計1回以内、本田での散布、空中散布、無人ヘリ散布は合計3回以内) |
16倍 | 1.6 | |||||
30倍 | 3 | |||||
カメムシ類 | 8倍 | 0.8 | ||||
ツマグロヨコバイ | 16倍 | 1.6 | ||||
だいず | カメムシ類 | 8倍 | 0.8 | 収穫7日前まで | 2回以内 | 3回以内(は種時の土壌混和は1回以内、散布は2回以内) |
スタークル1キロH粒剤
作物名 | 適用害虫名 | 使用量 | 使用時期 | 本剤の使用回数 | ジノテフランを含む農薬の総使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | カメムシ類 ウンカ類 ツマグロヨコバイ |
1kg/10a | 収穫 7日前まで |
3回以内 | 4回以内(育苗箱への処理及び側条施用は合計1回以内、本田での散布、空中散布、無人ヘリ散布は合計3回以内) |
アプロードスタークルゾル
作物名 | 適用病害虫名 | 希釈倍数 | 使用液量(ml/10a) | 使用時期 | 本剤の総使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | カメムシ類 ウンカ類 ツマグロヨコバイ |
8倍 | 800 | 収穫7日前まで | 3回以内 |
ダントツフロアブル
作物名 | 適用害虫名 | 希釈倍数 | 散布液量(/10a) | 使用時期 | 本剤を使用する場合の使用回数 | クロチアニジンを含む農薬の総使用回数 |
---|---|---|---|---|---|---|
稲 | ウンカ類カメムシ類 | 24倍 | 0.8 | 収穫7日前まで | 3回以内 | 4回以内(移植時までの処理は1回以内、本田での散布、空中散布、無人ヘリ散布は合計3回以内) |
だいず | アブラムシ類カメムシ類 | 24倍 | 0.8 | 収穫7日前まで | 3回以内 | 4回以内(は種時の土壌混和は1回以内、散布は3回以内) |
アミスターアクタラSC
作物名 | 適用病害虫名 | 希釈倍数 | 使用液量(10a) | 使用時期 | 本剤の使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | いもち病紋枯病カメムシ類ウンカ類 | 8倍 | 800ml | 収穫14日前まで | 2回以内 |
参考
・産業用無人航空機用農薬:一般社団法人 農林水産航空協会
・農薬の大気経由による飛散リスク評価・管理対策最終報告書:一般財団法人残留農薬研究
・空中散布における無人航空機利用技術指導指針:農林水産航空協会
・主な殺虫成分と適用害虫:農業恊同組合新聞
・図解でよくわかる農薬のきほん:㈱誠文堂新光社
・ネオニコチノイド系農薬問題とは?~情報・資料集~:一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト
・スタークル液剤10:クミアイ化学工業株式会社
・アミスターアクタラSCプレスリリース:シンジェンタジャパン
・ネオニコチノイド系農薬:コープ自然派