【2019年最新】ドローン農薬散布に必要な資格・免許(申請)を完全解説
ドローン農薬散布について
現在、農業の分野では高齢化や農業を行う人口の減少という問題に行き当たっています。そんな中、農業に最新のITを組み込む流れが進んでおり、その一部としてドローンの活用が進んでいます。
これまでの作物への農薬散布は、人力で散布するか、無人ヘリコプターによって散布を行ってきました。広大な敷地の管理を効率良く行おうとすると人力では困難です。無人ヘリコプターにおいても、機体購入には1,000万円を超える多く、農家が個人で使うにはハードルの高い価格設定でした。
しかしドローンの登場により、農家が自分自身で広域に農薬や薬剤、肥料を散布することが出来る未来が訪れました。これまでのように、自分で重たい農薬を背負って圃場に分け入って農薬を散布することも、高額な金額を払って農薬散布ヘリを外注することもなく、自分自身で楽に広い圃場に薬剤を散布することが可能になりました。
こうした農薬散布ドローンは2018年にニュースで取り上げられる機会が増え、未来の農業の姿として注目が高まっています。実際、この記事を読んでいらっしゃる農家の方も、頭の中にドローンを使用した新しい農業の姿を思い描いているのではないでしょうか。
しかしながら、農家の方でドローンを飛ばしたことが無い方は多くいらっしゃいます。にも関わらず、いきなり『ドローンで農薬を撒く』などと聞くと非常に敷居が高く感じてしまうはずです。「素人の自分でも散布を行って大丈夫なのか?」「トラクターのように、何か特別な資格や免許が必要になるのではないか?」初めての方は疑問だらけになります。
本記事では、ドローン農薬散布を始める人が全くのゼロからでも理解できるように、まずドローン一般に関する法律や資格・免許に関する知識について説明した上で、農薬散布ドローンを飛ばす方が知らなければならない知識と、取得が必要な資格について説明します。また、農薬散布には農林水産航空協会(農水協)からの認定が必要なだけでなく、国土交通省にも各種申請が必要です。そうした制度について一つ一つ紐解いて解説していきます。
ドローンを飛行させるには資格・免許が必要?
資格・免許は必要?
結論から申し上げると、ドローンを飛ばすのに資格も免許も必要ありません。「ドローンは誰でも飛行させて大丈夫」です。
「ドローンは日本で禁止されている」「特別な資格や免許が必要だ」と考えている方がいらっしゃいますが、これは間違いです。
ドローンを飛ばすことを国が許可する『免許』は存在しませんし、ドローンスクールで特別な『資格』を取る必要もありません。通常のドローンであれば、買ったその日に初めて飛ばしても法律上問題ありません。
法律で禁止されている「飛ばす場所」
「飛ばすこと」は自由ですが、法律で禁止されている「飛ばす場所」と「飛ばす方法」があります。これを破ると法律違反になります。
ドローンを規制している改正航空法では、「飛ばす場所」として以下の3つの飛行禁止エリアが規定されています。
(A) 空港等の周辺空域
(B) 150m以上の高さの空域
(C) 人口集中地区(DID地区)の上空
このうち、最も気をつける必要があるのが「人口集中地区での飛行」です。
基本的に日本の主要都市部のほとんどは、人口集中地区(DID地区)に該当しています。(日本ではドローンが禁止されている』と考えている方は、この法律から勘違いをしているケースが多いです。ただし、ドローンで農薬散布を行う必要がある広域の圃場がある地域は、人口集中地区を気にする必要が無い場合が多いです。
この3つの飛行禁止エリアのどれかに該当する場所を飛行させる場合、国が定めた機関への申請と許可が必要です。
法律で禁止されている「飛ばす方法」
ドローンを規制している改正航空法では、「飛ばす方法」として以下の6つの規制を守るよう定めています。これらの条件に反する飛行は国土交通省への申請が必要です。
この中で、ドローン農薬散布を行う際に最重要になるのが『危険物輸送の禁止』と『物件投下の禁止』です。これは必ず覚えて下さい。
なぜならば、「農薬=危険物」を搭載し、「散布=投下する」のが農薬散布だからです。農薬を散布する以上、必ず「この農地で農薬散布を行う」という国土交通省への申請が必要になります。また、散布するのが水のような無害な液体でも『物件投下の禁止』に該当し、やはり申請が必要です。
これら航空法規制適用内の飛行を行う場合、2018年から国土交通省への申請はオンライン上で可能になりました。この方法は後述します。
ドローン農薬散布には資格・免許が必要?
ここまでは、ドローンを飛ばす人間が全員知る必要がある、基本的な法規制の話をしてきました。ここからは「ドローンで農薬散布を行う場合」に必要なことが何か?という話です。
まず最初に、ドローンで農薬散布するのに国の許可証である『免許』は必要ありません。また、資格も必ずしも必要ではありません。ですが、農林水産航空協会(農水協)が定める、農薬散布を行う上で取得していることが望ましい『資格』があります。
国土交通省へ航空法に関する申請を行えば、ドローン農薬散布を行う準備が完了しますが、この『産業用マルチオペレーター技能認定証』という資格を取得すると安全管理上の信頼性が増します。この資格について見ていきます。
産業用マルチオペレーター技能認定証とは?
農林水産航空協会は、産業用マルチローター(農薬散布ドローン)で農薬・薬剤の散布を行うために、「操縦や農薬散布に関する技能と知識を一定水準有している」ことを認定する資格を設けています。これが「産業用マルチオペレーター技能認定証」です。
この資格の取得のためには、まず農林水産航空協会の指定教習施設で教習を受講し、その後に検定に合格する必要があります。
教習所でのコースは一般的に最短3日〜5日までを要します。マルチローター機体の取り扱いや運用管理について学ぶだけでなく、病害虫や雑草防除、農薬の安全使用に関する講義を受け、実技で飛行訓練も行います。
初心者と経験者で日数が異なるプランが用意されているケースが多く、費用はおおよそ総額20〜25万円前後が一般的な価格帯となります。
こうした全国いずれかの教習所で講義を受講し、「産業用マルチローターオペレーター技能認定証」が交付されて、初めて公式に農薬散布をドローンで行う資格を得ることができます。
参考:
別表2(空中散布に用いる機体は、農林水産省が定めた、「無人航空機利用技術指導指針」の「別表2」に掲載のある機体を用いる必要があります)
農薬散布の資格に関する注意点
1. 農水協認定の資格は、あくまで「指針」として定められている
前述してきたように農林水産航空協会の認定機体が必ず必要であるという規定はありません。あくまで農水協は農水省が出している「指針」に従って『資格を持っていることが望ましい』という立場を取っているだけであり、法的拘束力はありません。
現在、日本国内では数多くの種類の農薬散布ドローンが流通していますが、農水協の認定を得ていないドローンでも、国交省からの許可さえあれば飛行させることができます。しかし、農水協が従っている農水省の「指針」に従うのであれば、資格は取っておいた方が無難であるというのが現状です。
2. 機種ごとの認定になるため、自分が認定を受けた以外の機体では散布できない
注意すべきことは、この産業用マルチローター技能認定は、ドローンの機種ごとに認定されることです。つまり、2019年1月初旬現在は現在の「指針」に従う場合、自分が使用したいドローンで技能認定を受けられる教習所を選んで受講する必要があります。
また、例えばAGRAS-MG1で産業用マルチローター技能認定の交付を受けたとします。もしその他のメーカー機体で農薬散布を行いたい場合には、再度別の指定教習所にお金を払って通い、もう一度技能認定試験を受ける必要があります。
規制改革について
こうした農薬散布ドローンが普及する上での制約に対し、現在、国が大幅な制度改革を行う動きがあるようです。以下、第37回規制改革推進会議における安倍総理のプレゼンテーションから抜粋です。
第四次産業革命により世界は大きく変化しています。チャレンジを阻む、岩盤のように固い規制や制度を打ち砕き、改革を進めていく。安倍内閣の決意は、揺るぎないものであります。(…中略)地方創生を力強く進める鍵も、規制改革です。ドローンの活用を阻む規制など、農林水産業の成長産業化のための規制の見直しを始め、地方の活力を生み出す改革にも取り組んでまいります。
本記事はあくまで2019年1月初旬現在時点での方針を記載しています。本年度は国が公示する可能性がある、新しいガイドラインの動向に目が離せません。
国土交通省への申請について
国土交通省へ航空法に関する申請(主に危険物輸送、物件投下)を完了すれば、ドローン農薬散布を行う準備が完了します。
①に関しては第三章で解説したので、この章では②の方法に関して解説していきます。なお、2018年からドローンの国土交通省の電子申請システム(DIPS)が公開され、申請にかかる時間と手間が大幅に削減されました。そのため、本章ではDIPSを基準に申請について説明します。
申請前準備
まず、申請前に行っておかなければならない準備があります。
ドローンでは、国交省の認定資格を取得する場合には「10時間以上の飛行経験」という基準があります。
この10時間以上の飛行経験という条件は、農薬散布に関する飛行申請を行う際にも求められます。農薬散布ドローンに関しても、この基準を満たしていない場合は申請がまず通らないと考えてよいでしょう。大型の農薬散布機体を飛ばす前に、小型機体で操縦訓練を行い10時間以上の条件を満たしましょう。
その際には、小型のDJIドローンが初心者にとって最も安定性がありオススメです。自動航行等も対応しているので、「ドローンがどういったものか」を理解するには最適です。
また、この「10時間以上の飛行経験」というルールでは練習用機体は問いません。したがって、1万円前後のホビードローンでの練習を飛行経験にすることも可能です。とはいえ、農薬散布機体は相当の大きさ=高い危険性の機体を飛行・操縦することになるので、簡単なホビーで済ませるのではなく、しっかりとした操縦経験を積むことを意識しましょう。
なお補足となりますが、JUIDAやDJI CAMP等のドローン資格を取得することで、申請の入力項目を削減することが可能です。しかし、その代わりに証明書の提示を求められる等、手間に関してはさほど変わりません。ドローン自体の資格はあるに越した事はないですが、農薬散布機をメインで使用するのであれば必ずしも取得する必要はありません。
無人航空機・操縦者情報の登録
- DIPSのサイトに検索から入りましたら、『アカウントの開設』を行います。登録完了と同時に『申請者ID』『パスワード』が発行されるので、ログインします。
- 『無人航空機情報』と『操縦者情報』を登録します。その際、主要なDJI等のドローンは国交省のホームページに記載され、スムーズに登録が完了するようになっています。
- 申請が省略可能な機体は以下の国交省のファイル参照です。
- DJI以外の農薬散布ドローンは国交省のページに記載されていないものが大半なので、以下のような『無人航空機情報の登録』を行います。
- 『無人航空機情報』と『操縦者情報』の入力が終わりましたら、続いて無人航空機情報において、物件投下と危険物輸送に適応しているという資料を提出します。少々手間がかかる作業ですが、登録のためには通過しなければならない関門です。
それが終わりましたら、飛行申請書の作成に取りかかります。
包括許可申請について
ドローンを飛ばすにあたって、「申請が面倒」という話を聞いたことがあるかもしれません。実際、『国土交通省に申請を行う場合は、フライトの10開庁日前までに申請を行うこと』という原則があるなど、航空法に関する申請には煩雑な条件や手続きが多々必要になります。
加えて、一般的に想像される『個別申請』は、ドローンの飛行日が事前に確定している状態で、飛行する経路が単一で確定している場合に行なう方法です。そのため、悪天候時のリスケジュール等が利かず、天候に左右されがちなドローンでの業務用途には不向きです。
そこで、ドローンのオペレーターの多くは、『包括申請』という便利な制度を利用しています。この包括申請が承認されれば、最長一年間の期間であれば、航空法の規制に該当する方法であってもフライトが許可されます。
農薬散布の用途でドローンを使用する場合に関しても、一回の散布ごとに申請を行うのはスケジュール調整が利かずに不便なため、基本的にDIPSを使用して包括申請にて飛行申請書を作成しましょう。
飛行申請書の作成
『申請書の作成(新規)』ボタンを押し、具体的な飛行申請書の作成を行います。
この作業を全て解説すると非常に長くなるため大幅に省略しますが、1ページ目ではここまでで説明した以下のような航空法に関する項目を入力することになります。
『飛行禁止区域』に関する入力
『禁止された飛行方法』に関する入力
包括申請に関する入力
農薬散布機体を使用するにあたって、包括申請で一年間の申請を行う場合、『年間を通じて飛行しますか?』を「はい」にします。その上で、申請する飛行開始日を設定します。これで包括申請としての申請は完了です。
またこの後のページでは、先ほど説明した『無人航空機情報』と『操縦者情報』を入力する箇所があるので、申請を完了するにはこの二点の登録が既に完了している必要があります。
申請送信後、数日程度で国交省の担当からチェックが入った返信が返ってきます。申請内容に不備がある場合、DIPS上で修正を行うという作業を繰り返します。
申請内容に承認が下りれば「電子許可書」をダウンロード可能になり、その後開始日から一年間はドローンでの農薬散布に許可が下りている状態になります。
その他行うべきこと
事業計画書の提出
ここまでで散布を行うのに必要な準備は整いました。
しかし、実施にあたっては農林水産省が平成27年に発表している『空中散布等における無人航空機利用技術指導指針』という「指針」に定められている事業計画書を、散布実施月の前月末までに都道府県協議会に提出することが望ましいです。
具体的には、無人航空機を用いて農薬等の空中散布を行う場合は、実施場所、実施予定月日、作物名等を記載した事業計画書を作成し、実施する月の前月末までに、空中散布等の実施区域内の都道府県協議会に提出する必要があります。
下記記載の指定の用紙がありますので、以下のような項目を記入し作成します。
- 実施主体名
- オペレーター名
- 機体登録番号
- 実施場所
- 実施予定月日
- 作物名、など
事前周知と事業報告書
散布を実施する際は、空中散布の実施区域及びその周辺にある学校、病院等の公共施設、居住者等に対し、あらかじめ空中散布の実施予定日時、区域、薬剤の内容などについて連絡するとともに、実施に際しての協力を得るように努める必要があるとされています。
また、実施作業後は実績報告書の提出も必要です。事業計画書や事業報告書の提出先は各都道府県の協議会によって異なっている場合が多いです。実施する先の協議会へ直接確認を行って下さい。
いかがでしたでしょうか。
ここまで煩雑な手続きについて解説してきましたが、一度手続きさえ済んでしまえば、あとは業者等に外注しなくても散布が行えるようになります。
農薬散布ドローンを購入された方は、購入後にこういった手続きがあることを念頭に入れつつ、本記事を参考にして農薬散布ドローンの手続きを進めていただければと思います。
参考:
産業用マルチローターオペレーター技能認定基準
空中散布等における無人航空機利用技術指導指針
一般社団法人 農林水産航空協会「産業用マルチローター」ページ
ファームスカイテクノロジーズ ドローン教習所概要
首相官邸ページ 第37回規制改革推進会議
ドローン情報基盤システム ホームページ(DIPS)
【DIPS】ドローンの『飛行申請』を『オンライン』で実施する5つの手順:DroneWalker
ドローンDIPSオンライン申請を自分でする具体的手法:ドローン許可申請.com