農薬とは?どれが使用可能?農薬取締法を詳細解説
日本国内は温暖で多雨・多湿な季候条件のため、病害虫が発生しやすい環境です。そのため食料の安定的な生産のためには、病害虫の防除が欠かせません。それゆえ、日本は農薬使用量が多いという状況にあります。
しかし、ドローンの普及で農薬散布という言葉を耳にすることは増えましたが、結局農薬とは一体どういったものなのでしょうか?
本記事では、農家が育てる作物の安定した成長に必要な「農薬」がどう定義されており、どういった使い方ができるのかという点について、現在の法律や制度の観点から見ていきます。
農薬の定義とは? どこまでが農薬?
農薬取締法によって農薬は定義されている
農薬取締法では、農林水産大臣による効果・安全性等をチェックし、問題ないと登録されたものを農薬と呼びます。農薬として登録されて、初めて製造、輸入、販売、使用が可能になります。この『農薬』の定義は、以下のように農薬取締法において定められています。
農作物の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう
ここでポイントになるのは、農薬の定義が「農作物の保護と成長の調整の目的で使用されるあらゆる資材の総称」であることです。農薬と聞いてイメージする薬剤だけでなく、「農作物の保護と成長の調整」のために圃場に散布するもの全てに、「農薬」としての認可が必要です。
この定義では、農作物の病害虫防除に利用する「天敵」も農薬とみなされています。
例えば、水田では「あいがも農法」というカモを放鳥して水田の虫や草を食べてもらい、農薬散布を行わずにお米を育てる方法があります。ところが、このカモは「農作物の保護と成長の調整」のために圃場に放ったものであるため、法律上は「農薬」としてみなされます。同様の「天敵農法」として、アブラムシの天敵として放つテントウムシなども「農薬」です。
こうした「天敵」は、後ほど解説する『特定農薬(特定防除資材)』という扱いで農薬取締法上の登録を受けているため、圃場に放つことが許可されています。
しかし、その他にも米ぬかや海水、融雪剤といったあらゆる物も、「農作物の保護と成長の調整」の目的で圃場に使用する場合は、原則として「農薬」の登録を必要とします。そして、登録されていないものは農薬として公式に販売することや、圃場での使用することは原則として禁じられています。
農薬の種類について
農林水産省のページによれば、農薬には具体的に「殺虫剤」「殺菌剤」「殺虫殺菌剤」「農作物の害虫」「除草剤」「殺そ剤」「植物成長調整剤」「誘引剤」「展着剤」「天敵」「微生物剤」などが該当しています。この中で、農薬は主に三種類に分けられます。
- 病害虫の防除に使う薬剤:
殺虫剤、殺菌剤、除草剤、誘引剤、交信撹乱剤など
害虫の被害や、植物の病気を防止するために使用されます。 - 成長調整に使う薬剤:
発根促進剤、着果促進剤、無種子果剤など
植物の成長を促進させたり、植物を特殊な形に変化させるために使用されます。 - 病害虫防除に利用する天敵:
寄生バチ、テントウムシ、カブリダニ、昆虫ウイルスなど
加えて、農薬は化学農薬と生物農薬の2種類にも分けることが出来ます。
化学農薬は、ほとんどの殺虫剤など化学的に合成された物質を有効成分としています。一方の生物農薬は、上記3のような天敵や、微生物等を有効成分とする農薬指します。特に最近は生物農薬が注目を集めており、例えば枯草菌(納豆菌)を成分とした新農薬や、特定の害虫に病気を起こさせるウイルスなど研究が積極的に進められています。
農薬の使用に関する注意
農薬はそれぞれ、適用可能な作物と病害虫、農薬の使用時期、散布液量、使用上限回数といった条件が定められています。この用法用量を守る必要があります。
特に、希釈倍率には注意が必要です。殺虫剤や殺菌剤のラベルには、何倍に薄めて使うかの希釈倍率が「1000〜2000倍」といったように幅を持たせて記載されています。この表示に合った基準倍率まで濃度を薄くして散布を行いましょう。
また、農薬には毒性の程度により毒物・劇物と呼ばれるものがあり、ラベルにそれぞれ「医薬用外毒物」「医薬用外劇物」と表示されています。(この両者に該当しないものは「普通物」とされます)
「毒物」「劇物」を表示するのは目的外の使用による事故を防ぐため、自己を保管・管理を徹底させるためです。毒劇物指定の農薬を扱う販売店には取扱い資格を持った責任者を置く必要があり、また購入は「毒劇物譲受書」に捺印署名が求められるなど厳重な受け渡し記録が求められます。
剤型による違い
剤型とは、粉剤、粒剤、豆粒剤などといった、製剤の形態のことを言います。
大別すると、水に薄めるものとそのまま使うものに分けることができます。農薬にはさまざまな形状の製品があり、さらに安全性を高い農薬の開発が進められています。
水で薄めるものには、液状のタイプと固形のタイプがあります。固形タイプの中で粉状のものは、空気中に粉が舞うことが安全面で問題になりました。そのため、最近では顆粒状のタイプが増えてきています。
また、こうした水で薄めて使用する農薬は、作物全体に農薬を付着できる点で優れているものの、散布を失敗すると飛散し、周辺環境に影響が生じる危険性があります。そのため、散布ノズルを飛散しにくいノズルにしたり、飛散防止カバーを装着するといった工夫がなされています。
特定農薬(特定防除資材)の扱い
特定農薬とは?
特定農薬(本来の名前は特定防除資材)とは、原材料が人や動物などに害が無いことが明らかなものを農薬として、農林水産大臣及び環境大臣が指定したものです。
具体的には、特定農薬は5種類あります。食酢、重曹、エチレン、次亜塩素酸水、そしてこれまで述べてきた『天敵』が該当し、登録された農薬として散布することを許可されています。
特定農薬規定の成立の背景
少し話は変わりますが、農薬取締法は2003年に改正し施工されました。その背景となったのが『無登録農薬』の問題です。農薬として登録されたものは、メーカーが毎年義務づけられている安全性の報告を怠った場合や、安全性に問題が発見された場合、国が農薬の登録取消を行うことが可能です。
こうして生まれた「失効農薬」が、『無登録農薬』であるにも関わらず全国的に流通していたことが発覚して大問題となり、2003年に農薬取締法が改正されて現在の形になりました。その際に追加されたのが以下の規定です。
- 無登録農薬の製造・輸入・使用の禁止(販売は従来から禁止)
- 農薬使用規準に違反する農薬使用の禁止
- 罰則の強化(販売者のみならずすべての使用者に対して適用)
- 特定農薬の規定
特定農薬はこの時に規定され、農薬取締法は現在の形である
『登録された農薬 + 特定農薬(特定防除資材)』
以外の資材を圃場に散布することを禁止する法律になりました。
補足:特定農薬の指定保留資材
特定農薬の制度が成立した際に『どこまでを特定農薬とするか』が議論となりました。最初は約700種類以上の「資材」が議論に上げられ、どれが「害が無いことが明らかなもの」だと言えるのか?という話になりました。そこでの議論を経て、現在の5種類の農薬が特定農薬とされています。
しかし、それ以外の資材に関しては安全性のデータが不足しており、『農薬ではない』と言い切るのが難しいものが数多くありました。そこで、多くの資材が特定農薬とするかの判断を「指定保留」の状態にありました。
これまで「指定保留」とされた資材は数多くあり、その散布に関しては圃場の保有者の自己責任で行われている状況でした。しかし、2019年1月現在時点、農林水産省の見解では指定保留資材は10種類にまで限定されているようです。(焼酎、ヒノキの葉、木酢液…などが10種類の中には該当します。)
これによって、現在実質散布が可能な資材は15種類となっており、それ以外の資材を圃場に散布することは農薬取締法で禁止されているとなっている状態です。無農薬や有機農法への期待がある中で、こうした規制がさらに改正されていくのかは今後の動向次第です。
空中散布が行われる農薬とは?
農薬取締法内での扱い
『空中散布における無人航空機利用技術指導指針』によれば、空中散布は”無人航空機を用いて行う空中からの農薬、肥料、種子又は融雪剤の散布であって、 農作業を効率的に行うことを目的とするもの” と定義されています。
そして、基本的には農水省により『無人ヘリコプター散布用』として登録されている農薬が空中散布において使用されています。無人ヘリコプターもドローンも、普段散布している農薬はこの『無人ヘリコプター散布用』として指定されているものです。
希釈倍率について
この空中散布用の農薬は、通常の農薬と比較して希釈倍率が8〜16%と非常に高いという特徴があります。こうした高濃度で危険性の高い農薬に対して、農水省は「空中散布を行っても大丈夫か」という安全性を確かめて個別に許可を出しています。
通常の『散布用』という表記が記載されている農薬に関しても、空中散布は可能ですが希釈倍率が1000〜2000%と非常に低い状態になっています。また、『散布用』農薬を空中から散布してよい条件として、「地上から散布する場合と同じ希釈倍率であること」とされています。そのため、基本的に農薬をそのまま散布しても薬効成分が足りず、実用性があるとは言い難い状態です。
この点については、こちらの記事で詳しく解説しています。
いかがでしたでしょうか。
農薬は農業に関わる方以外だとなかなか馴染みの薄い分野になるため、必要な情報を集めるのに苦労する方が多数いらっしゃるかと思います。ドローン農薬散布等が広まっている中で、きちんとした知識を身につけた上で事業を行いましょう。
参考:
図解でよくわかる農薬のきほん:㈱誠文堂新光社
農薬取締法:農林水産省
特定防除資材(特定農薬)について:農林水産省
農業をめぐる情勢:農林水産省
産業用無人航空機用農薬:一般社団法人 農林水産航空協会
知っておきたい農薬の基礎知識-種類や作用の違いなど-:マイナビ農業
ドローンによる空中散布可能な農薬と作物の調べ方:株式会社旭テクノロジー
空中散布における無人航空機利用技術指導指針:農林水産航空協会