ビームゾル・ブラシンとは?メラニン合成阻害系殺菌剤を解説
有効成分と適用病害菌
メラニン生合成阻害系殺菌剤は、トリシクラゾール、フサライド、ピロキロン、トルプロガルブといった主な有効成分が挙げられます。メラニン生合成阻害剤は、メラニンの生合成を阻害することにより、イネいもち病菌の感染を阻害して防除効果を発揮します。
イネいもち病菌は、付着器という特殊な組織を使用し、侵入菌糸を葉の表皮から力技で貫通させることでイネに感染します。この付着器の強度を維持するためにメラニンが重要な役割を持っています。メラニンを阻害することで、付着器の強度を弱めて感染を防ぐことが可能です。
メラニンはイネいもち病菌の生育には直接必要ないため、本成分はイネいもち病菌自体への殺菌効果を持ちません。
なお、トリプロガルブは近年発見されたばかりであり、既存のメラニン生合成阻害剤とは異なる酵素を阻害する新規の作用機構を示します。
代表的な商品
メラニン生合成阻害剤の代表的な商品として、以下が挙げられます。
- トリシクラゾールを有効成分とする『ビーム』
- フサライドを有効成分とする『ラブサイド』
- ピロキロンを有効成分とする『コラトップ』
- トルプロカルブを有効成分とする『サンプラス』『ガッツスター』『ゴウケツ』
『ビーム』『ラブサイド』は比較的多様な空中散布可能な農薬が用意されています。
トルプロガルブの『サンプラス』も空中散布用に作られていますが、三井化学アグロにより近年発見されたばかりの成分です。
平成27年9月に本田処理粒剤として国内で初年度登録されたため、国内での空中散布面積は少なく留まっています。
今後が期待される薬品です。
空中散布の状況
一般財団法人残留農薬研究所の研究によれば、平成28年度の無人ヘリコプター防除(水稲)における農薬の使用面積は、
- トリシクラゾール:266(千ha)
- フサライド:218(千ha)
となっており、これは殺菌剤全体の第1位、2位の圧倒的な立場を占めています。
※ トリプロカルブに関しては、現在まだ主流になっているとは言えない状況です。
空中散布可能な商品:トリシクラゾール
2019年1月現在、主な空中散布可能なトリシクラゾールを主成分にする薬剤には以下が挙げられます。
- ビームゾル
- ビームエイトゾル
- ビームバリダゾル
- ノンブラスフロアブル
- ノンブラスバリダフロアブル
- ダブルカットフロアブル
- ダブルカットバリダフロアブル
ビームゾル
成分:トリシクラゾール 20.0%
いもち病菌の稲体への侵入を強く阻止するため、高い予防効果を示します。
また、いもち病菌の胞子の形成・飛散を抑制します。飛散胞子の病原菌の力を低下させ、二次感染を阻止します。これにより、いもち病の蔓延を抑えることが出来ます。
このため広域に使用される防除では防除効果がより持続されるため、向いていると言えます。
また作物に速やかに吸収、移行されるため、降雨などの影響を受けにくく残効性が高いという特徴があります。
主要なメーカーとしては、住友化学、サンケイ化学 、クミアイ化学が挙げられます。
*1『ビームエイトゾル』 はトリシクラゾールの有効成分が8%になっています。*2『ビームバリダゾル』は、紋枯病に対する進展阻止効果と持続性をもつバリダシンとの混合剤で、いもち病・紋枯病の同時防除が可能です。
ノンブラスフロアブル
成分:トリシクラゾール 8.0%、フェリムゾン 15.0%
トリシクラゾールがいもち病菌の侵入阻止効果を発揮し、胞子の形成・飛散を阻害するのに加えて、ノンブラスは2成分で混合剤として作用します。
一方の有効成分フェリムゾンは、いもち病菌、ごま葉枯病菌の他、穂枯れ性病害起因菌に、幅広く高い有効な効果を示すため、ノンブラスやブラシンの一成分としてよく使われています。効果は予防的というよりも治療的と言えます。
ノンブラスは散布後すみやかに稲体内に浸透するので、降雨による効果の低下が少ない強力な耐雨性を発揮し、また他剤の耐性菌にも効果を安定して発揮します。また、混合剤によって治療効果と予防効果を同時に有し、適期幅が広いと同時に残効性も高く示します。
*1『ノンブラスバリダフロアブル』は、紋枯病に対する進展阻止効果をもつバリダシンとの混合剤で、いもち病・紋枯病の同時防除が可能になります。
ダブルカットフロアブル
成分:カスガマシン一塩酸塩 1.37%、トリシクラゾール 8.0%
予防効果と二次感染阻止効果を発揮するトリシクラゾールと、治療効果に優れるカスガマイシンの混合剤です。いもち病菌の生活環のほとんどに作用し、いもち病を的確に防除します。残効性にも優れます。
空中散布可能な商品:フサライド
2019年1月現在、主な空中散布可能なフサライドを有効成分にする薬剤には以下が挙げられます。
- ブラシンゾル
- ラブサイドフロアブル
- ブラシンバリダゾル
- モンカット20フロアブル
- ラブサイドモンセレンフロアブル
ラブサイドフロアブル
成分:フサライド 20.0%
いもち病菌の菌糸侵入阻止作用が強く、高い防除効果があります。また、二次感染阻止作用により病原菌の拡大を防ぎます。
早めの防除によって葉いもち、穂いもちに優れた効果を発揮しますが、穂ぞろい期、穂ばらみ期に特に効果があります。かつ、穂ぞろい期の散布がより有効であると言えます。
他のメラニン生合成阻害の薬品と同様、耐雨性、残効性に優れています。また耐性菌の出現し難い薬剤です。
人畜、魚介類、蚕、他作物などへの影響はほとんどないこともメリットです。
取扱メーカーは、協友アグリ、北興化学、住友化学が挙げられます。
*1 『モンカット20フロアブル』は、稲紋枯病に浸透性を有し予防・治療効果を有するモンカットと、いもち病・紋枯病の同時防除剤です。
*2 『ラブサイドモンセレンフロアブル』は、紋枯病に強力な菌糸侵入阻止力のあるモンセレンとの配合により、いもち病・紋枯病の同時防除剤です。
ブラシンゾル
成分:フェリムゾン 20.0%、フサライド 15.0%
いもち病の予防効果に定評があるフサライドと、いもち病の治療効果に優れるフェリムゾンの混合剤です。散布適期幅の広い航空防除専用剤として高い知名度を誇ります。
有効成分のフェリムゾンは、いもち病菌、ごま葉枯病菌の他、穂枯れ性病害起因菌に、幅広く高い有効な効果を示します。ノンブラスやブラシンの一成分としてよく使われています。このフェリムゾンとの混合により予防・治療両者の機能を持ちます。
取扱メーカーは、住友化学、サンケイ化学、北興化学などです。
*1『ブラシンバリダゾル』は、紋枯病に対する進展阻止効果をもつバリダシンとの混合剤で、いもち病・紋枯病の同時防除が可能になります。
薬品使用上の備考
メラニン生合成阻害系殺菌剤は、基本的にいもち病に特化して効力を発揮します。そのため、他の薬剤と配合して紋枯病等の病気への適用範囲を広げた薬剤が多く発売されています。
ほとんどが魚介類、カイコ、ハチ類、天敵類、鳥類に対して影響が少ない薬剤であるため、周辺環境に非常に優しい点も普及の後押しをしています。
適用病害及び使用方法
ビームゾル
作物名 | 適用病害名 | 希釈倍数 | 散布液量 (ml/10a) |
使用時期 | 本剤の使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | いもち病 | 6~8倍 | 800 | 収穫7日前まで | 3回以内 |
ノンブラスフロアブル
作物名 | 適用病害名 | 希釈倍数 | 散布液量 (ml/10a) |
使用時期 | 本剤のみを使用する場合の使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | いもち病 | 8倍 | 800 | 収穫7日前まで | 2回以内 |
ダブルカットフロアブル
作物名 | 適用病害名 | 希釈倍数 | 散布液量 (ml/10a) |
使用時期 | 本剤の使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | いもち病 | 8倍 | 800 | 穂揃期まで | 2回以内 |
ラブサイドフロアブル
作物名 | 適用病害名 | 希釈倍数 | 散布液量 (ml/10a) |
使用時期 | 本剤及びフサライドを含む農薬の総使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | いもち病 | 5~8倍 | 800 | 収穫7日前まで | 3回以内 |
ブラシンゾル
作物名 | 適用病害名 | 希釈倍数 | 散布液量 (ml/10a) |
使用時期 | 本剤のみを使用する場合の使用回数 |
---|---|---|---|---|---|
稲 | いもち病 穂枯れ (ごま葉枯病菌) 内頴渇変病 もみ枯細菌病 | 8倍 | 800 | 収穫7日前まで | 2回以内 |
参考:
産業用無人航空機用農薬:一般社団法人 農林水産航空協会
農薬の大気経由による飛散リスク評価・管理対策最終報告書:一般財団法人残留農薬研究
図解でよくわかる農薬のきほん:㈱誠文堂新光社
主な水稲殺菌成分の特性一覧:農業恊同組合新聞
ビームゾル:クミアイ化学工業株式会社
ラブサイドフロアブル:北興化学工業株式会社
ブラシンゾル:北興化学工業株式会社